広島地方裁判所 昭和39年(行ウ)13号 判決 1965年7月20日
広島県佐伯郡佐伯町浅原二、五二九番地
原告
松田真澄
右訴訟代理人弁護士
山辺芝二
広島県佐伯郡廿日市町
被告
廿日市税務署長
藤井博雄
右指定代理人広島法務局検事
鴨井孝之
同
法務事務官 中山道則
同
国税訟務官 横田稔雄
同
大蔵事務官 池田博美
同
渡辺岩雄
同
陰山健二
同
浅田和男
同
中本兼三
同
石田金之助
同
吉富正輝
右当事者間の昭和三九年(行ウ)第一三号贈与税に対する異議請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件訴はいずれもこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告が昭和三八年九月一八日付で原告に対してなした昭和三七年度贈与税額金二〇七、〇〇〇円及び無申告加算税額金二〇、七〇〇円の賦課処分を取消す。被告が昭和三九年二月一四日原告に対してなした別紙目録記載(三)(四)の不動産に対する差押処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
原告は昭和三七年四月三〇日訴外倉田茂久から別紙目録記載(一)(二)の土地を、同年五月一日訴外小川田鶴子から同目録記載(三)の土地を、同年五月一五日訴外正木勇から同目録記載(四)の建物をそれぞれ買受け、右各不動産の売買代金合計金一、二〇〇、〇〇〇円を訴外山田久行から借受け、右売主三名に対し支払つた。ところが被告は、原告が原告の父訴外松田登喜太より右各不動産の贈与を受けたものと認定し、かつ右各不動産を合計金一、一四〇、〇〇〇円と評価し、同三八年九月一八日付をもつて原告に対し同三七年度贈与税額金二〇七、〇〇〇円及び無申告加算税額金二〇、七〇〇円の賦課処分をなした。そこで原告は同三八年一一月二一日被告に対し右賦課処分に対する異議申立をしたところ、被告は同年一二月一四日右異議申立を却下する旨の決定をしたので、同三九年一月九日訴外広島国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は同年二月一九日右請求を却下する旨の裁決をした。そして、被告は同年二月一四日原告に対する国税滞納処分の執行として原告所有の別紙目録記載(三)(四)の不動産を差押えた。よつて原告は、被告のなした右賦課処分ならびに右差押処分の各取消を求める。
と述べ、
立証として、甲第一号証、第二号証の一、二、第三、四号証を提出し、乙号証の成立はすべて認めると述べた。
被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、その理由として、
国税賦課処分、及び国税滞納処分による差押処分の各取消を求める訴については、いずれも右各処分につき異議申立についての決定又は審査請求についての裁決を経た後でなければ、これを提起しえないものであるところ、原告は右の不服申立手続を経ていないから、本件訴はいずれも不適法であり却下を免れない。仮に、原告が被告に対して提出した「事実の開始及申告」と題する書面が本件贈与税の賦課処分に対する異議申立書にあたるとしても、原告は、昭和三八年九月二〇日被告から本件贈与税の賦課決定通知書の送達を受けながら、それより一月以上経過した同年一一月二八日に被告に対し右書面を提出したのであるから、結局右書面の提出によつては適法な異議申立がなされたとはいえず、本体訴は却下を免れない。
と述べ、
立証として、乙第一ないし第三号証を提出し、甲号証の成立はすべて認める、と述べた。
理由
被告が昭和三八年九月一八日原告に対し原告主張のような賦課処分をしたこと、ならびに被告が同三九年二月一四日原告に対し原告主張のような差押処分をしたことは、弁論の全趣旨に徴し、いずれも当事者間に争いのないところである。
そこで、先ず本件賦課処分の取消を求める訴の適否について検討する。
いずれも成立に争いのない甲第二号証の二、乙第一ないし第三号証によれば、原告は同三八年九月二〇日被告から本件贈与税の賦課決定通知書の送達を受けたので、同年一一月二八日被告に対し「事実開示及申告」と題する書面を提出したこと、右書面の記載内容は、原告において被告のなした本件賦課処分に対する不服を申立てたものであること、被告においても右書面の提出をもつて本件賦課処分に対する異議申立として処理し、これを法定期間経過後の不適法な異説申立として却下する旨の決定をしたこと、原告は同三九年一月九日訴外広島国税局長に対し被告の右却下決定につき審査請求したところ、同局長は同年二月一九日被告と同じ理由により右請求を却下する旨の裁決をしたことがそれぞれ認められる。
ところで、税務署長のなした国税賦課処分に不服ある者が、これに対し異議申立をしても、右のように国税通則法第七六条第一項所定の期間を経過した不適法な異議申立をなしたにすぎないときは、右賦課処分の取消を求める訴を提起するにつき、国税通則法第八七条第一項所定の不服申立手続を経たものとはいいがたく、又原告は同条第一項但書所定の如き不服申立手続を必要としない特段の事由の存在を何ら主張立証しないから、原告の右本訴請求は不適法というべきである。
次に、本件差押処分の取消を求める訴の適否につき考えるに、税務署長のなした国税滞納処分による差押処分の取消を求める訴についても、本件賦課処分の取消を求めるのと同様、国税通則法第八七条第一項本文、行政事件訴訟法第八条第一項但書により、右差押処分につき異議申立についての決定又は審査請求についての裁決を経た後でなければこれを提起しえないものであるところ、原告が本件差押処分につき右の不服申立手続を経たことは原告において何ら主張立証しないのみならず、かえつて弁論の全趣旨によると、原告が本件差押処分につき適法な不服申立手続を経由していないことが認められるところであり、その他記録に徴しても本件においては、不服申立手続を必要としない特段の事情は窺われないから、原告の右本訴請求も不適法なものといわなければならない。
よつて、原告の本件訴はいずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 熊佐義里 裁判官 西内英二 裁判官 反町宏)
別紙目録
(一) 広島県佐伯郡佐伯町津田字林四、七八一番の一
田二畝五歩
(二) 広島県佐伯郡佐伯町津田字林四、七八四番の二
田六畝一一歩
(三) 広島県佐伯郡佐伯町津田字林四、七八〇番
宅地一三四坪
(四) 広島県佐伯郡佐伯町津田字林四、七八一番の三
家屋番号津田四三四番の四
木造瓦葺平家建居宅 一棟
建坪三四坪五合